ミュージカル「リューン 〜風の魔法と滅びの剣〜」

リューン再演、あっという間に東京千秋楽を迎えましたね。これから5都市周るということで、ハードでしょうけども怪我なく頑張ってほしいです。

そして推しは初のヒール役。いろいろと刺さるものがありました。初見の感想も書きつつ、1回目と2回目とで少し見え方というか解釈が変わったのでそれぞれ書いておこうかと思います。

トピックは2つです!長いのでお好きな方から読んでくださいませ…。シーン描写とか間違いあったらごめんなさい。そして後半はほとんど私の妄想のファンルン様解釈です。


個人的グッときたファンルン様のあれこれ(ほぼ初見の感想)

登場は『三つのかまど亭』のテーマに連なる「ファンルンの弟子入り志願」とともに。いや初っ端から歌うま!!!!!!(泣)(泣)溝口くんといえば、”低音”かつ比較的”太い”歌声、そしてよく伸びるイメージがあるのですが、このときは違った気がします。あまり聴き慣れないような、ファンルンらしくどこか軽薄な高音。太くも細くも、短く切るも広く伸ばすも自由自在といった感じでした。登場して早々になんだか誇らしくなってしまう私(なんでやねん)。ファンルンだからなのか溝口くんの歌唱力アップによるものなのかはわかりませんが、これまでの歌声のイメージとの違いに思わず声が出そうになった瞬間でした。

そして、本当によく飛び回るんですよねこの人。ちょっとした移動ですら大げさにひらりと舞う。やはり軽薄で胡散臭い(褒めてます)。その身軽さや相変わらずの跳躍力に新鮮に驚いてしまった…。くねくねとした身振り手振りも怪しさ胡散臭さ天下一。一方で滅びの剣を持ったエルカやダイ、襲いかかってくるダナトリアに短剣2本で対峙する姿の頼もしさたるや。片手ノールックで剣取り出すのかっこよすぎ案件。飄々とした姿とのギャップに軽率にキュンとしてしまいました!!!!

フロー、ダイ、エルカらと深く関わるようになるのは、ファランディーアの泉でのシーンから。偶然その場に居合わせたファンルンは3人を発見し、背後からそっと近づいて様子を窺います。ゾッとするほど怪しく鋭い雰囲気を漂わせていました。しかし箱をのぞき込む彼らの後ろから「なにしてるのっ♪」と歌うように無邪気に声をかける様子、一寸前とはもはや別人です。エーッ めちゃくちゃ可愛いですけど…。3人が呪文を唱える場面でも、「僕は?僕は?」「仲間はずれにしないでよぉ~」「じゃあ合図係やるね!Are you ready?せーのっせーで!って言っていい??」「さん、にー、いち!って言うね!スリー、ツー、ワン、せーのっ!!」(この間まじで迷惑そうな顔をする3人)などと可愛いが大暴走でした。毎公演アドリブのこのシーン。楽しそうに3人を振り回す溝口くん、イキイキしていて非常によかったです。

みぞファンルンの何がやばいって、こういうところじゃないですか?溝口くんお得意のあざとい振舞いもピッタリ役にハマっている。その分ファンルンの本性である「静かな狂気」を一層際立たせているように思えます。

 

ファンルン様の何に惹きつけられるかというと、彼の持つ裏(本性)の表情が全編通して見え隠れする様子だと思います。ヘラヘラしている風を装っているけど、たまに現れる素の部分。表と裏の落差を見るにつけ、文字通り身体がゾクっとするのを感じました。それほど別人のようで、恐ろしかったです。

たとえば、滅びの剣がダイの手に渡り、親の仇ダナトリアを前に暴走を始めるシーン。泉から追いかけてきたファンルン、里の人々を惨殺するダイを見て目を輝かせていました。血が騒ぐ様子を隠せず、「行けえええええ!!!!!」と叫んでしまう始末。何も知らずにダイに近づく一角狼座の人々に、「離れろ!!」と叫び、一時は守ろうとしていました。しかしダイの剣に次々と人が倒れていくのを見ながら、興奮を抑えきれない様子の彼がいた。ここでやっと「アッ、ファンルン様やべー奴だ」と認識しました。溝口くんてたまにおふざけでワルい顔するじゃないですか。あれを本気の悪役に落とし込んでいるの、ほんと〜〜にゾクゾクした…。しかも色気すら見て取れる。これが溝口琢矢(24)の実力か…完敗だ…!!表情に注目しているとわりと序盤から怪しげな笑みを見せたりしていて、「コイツ裏切りそうだな」感はすごい。こういう細かい表情など、とにかく作り込まれていて、ついファンルン定点ウォッチングしてしまう私としてはめちゃくちゃ楽しかったです…。

あと1幕終わりの「風の舟」歌唱部分。新たな「調和の3」となった彼らが舟に乗り、いざ旅へ出発!というシーン。このときのファンルン、「本当にこの後で2人を裏切る役でしたっけ?」と思ってしまうほど清々しい表情で、真っすぐに遠くを見つめておりました…。あの時ばかりは、風が味方していただろうな。いやはや恐ろしい人だ。

そしてたたらの島へ到着。エルカにちょっかいを出すファンルンが可愛かった。「ふざけないで!!」と言われて「ふざけさせてよ~~」と返す人、初めて見ました。可愛い!!!

物語後半で風の洞窟に到着。「エルカのエコーミュージック」、3人まとめて可愛らしくて大好きです。風の精からエコーが返ってくるのを利用して遊びはじめるエルカ。一緒になってはしゃぐファンルン。を、いちいち止めて叱るフロー。ファンルン様、それはもうニッコニコで、エルカの後に続いて楽しそうにルンルン舞い踊るのが本当に愛おしくて爆発しそうです。真似して踊るんだけど踊り方がダサいフローを指差し笑うファンルン。平和か。とてもこの後裏切りを働くとは思えません(2回目)。このシーンが幸福感に満ち溢れている分、次のフローが痛めつけられるシーンが辛くてたまらない…。

曲も終わりの頃、エルカが歌っているすぐ側で、さっきまでニコニコ楽しそうにしていたファンルンが突然人を殺しそうなほど冷たい表情に切り替わった瞬間を見てしまって本当にもうどうしてくれよう……………!!!ワル〜い笑みを浮かべて、しめしめと思っているのか、はたまたエルカも魔法使えるのではなどと思惑を巡らせているのか…(この切り替えが全編通して随所にあったような。笑顔⇄氷のように冷たい眼差しの行き来を見てしまった日にはもう人間不振になりそうです…本当に同じひとなのファンルン様…。)

ファンルン様の冷たい表情って、マジモンの狂気だから本気でゾクゾクします。竜胆様*1も冷たかったけど、あれは憂いも含んでいるから美しさすら孕んでいました。ファンルン様はほら…マジなやつだから(2回目)

 

で、ナダージアの手下たちによってフローは眠らされ、囚われてしまいます。エルカもファンルンに毒を盛られて眠ってしまいます。ファンルン様、眠ってしまったエルカを池?の中に蹴っ飛ばして落とすんですけど無慈悲にも程があるだろう…!!!!!!!冷たく、でも歌うように「さようなら」と言った声にはこれまでと変わらない軽薄さが滲んでいるような気がしました。蹴っ飛ばす所作も迷いがなくて軽い。最初から最後まで、ファンルンは何も変わっていない。ただ嘘をついていただけ。ああすごくシンプルだったなあと思いました。登場後は里の人々に怪しまれていたし、旅が始まっても(特にエルカには)ずっと受け入れられていなかったですよね。(フローも怪しんではいたけど、彼だけは少しずつ受け入れてくれていた気がする。気がするだけ。だから余計に裏切りが辛い。)

とにかく溝口くんらしく、計算高く作り込まれたファンルンが好きだなあという話でした。

 

ファンルンも救われるべき人物だったのではないか

初見では、「ファンルン、正義とか悪とか概念の問題ではなく、己の欲求に従うだけの動物的で一番ヤバい奴だ…!」と震え上がりました。理性のリミッターがたぶん外れているのだけどそれが表面化しない恐ろしさというか、己の狂気を飼い慣らしている冷静さ。それがコミカルな姿に隠されながらも時折見え隠れする様子を見て、本当に怖かったです。「やっぱり怪しいなこの人」と思わせる要素を適切に置いていく、溝口くんの丁寧な役作りを存分に楽しめました。

しかし2回目の観劇にて、そんなファンルン様の人間味のある部分を見てしまった気がして、そうなると彼に対する考え方が変わりました。

具体的に言うと、たたらの島でのシーンです。フロー、エルカ、ファンルンの一行は、この島での凄惨な奴隷制度の実情を知ることになります。フローとエルカがあまりのショックに言葉を失い俯く横で、ファンルンの表情からは今ひとつ感情が読み取れない。難しい顔をして何か思うところはある様子だけど、それが何かはわからない。

その時、島の奴隷コーリオを筆頭に、他の奴隷たちも声を合わせて「いつか虹を見たい」を歌います。「雨が止んで虹が架かればこの運命も変わるだろう」と。これを聴いてか、ファンルンはフローやエルカから少し離れたところへ歩きます。希望を歌う奴隷たちに背を向けて。

もしかすると、ファンルンは運命が変わることを望む奴隷たちを見て動揺したのかもしれない。決められた生き方を変えたいと願う人々に驚いたか、苛立ちを感じたか、正確にはわからないですけど、運命を変えられなかった自分と重ねたんじゃないかなと。これは初演ファンルンのたかとくんのブログ*2や、溝口くんの本番前のインタビュー*3を読んだからこそ思うことであって、これらを読んでいなかったら微塵もそんな風に読み取らなかっただろうと思います。なので決して「これが正解のはず!」と言いたいわけではなく、こういう見方もあるのかなぁと思いながら書いています。

初見から見方が変わった一番のきっかけは、フローの左腕が試し斬りのため切り落とされるシーンです。人が「恐怖に歪む顔」を快感だの興奮だのと歌うファンルンが、その瞬間に目を背けるのを見てしまいました。そこで違和感をおぼえて、ファンルンの言う"欲求"って、当初思っていたものとは少し種類が違うのかもしれないと感じたわけです。

風の洞窟では「ファンルンの正体」を高らかに歌い上げ、「好きなんだよ 人を殺すのが」「恐怖に歪む 顔がたまらない」と残虐な本性を明らかにします。ナダージアのスパイとしてルトフの里に潜り込み、カダ王国よりも先に滅びの剣を見つけ出すことが密命だったファンルン。しかし滅びの剣の威力とフローの風の魔法を知ったことで、密命ほっぽり出して欲求を満たすべく自分と組むようフローに持ちかけます。

これも7割くらい私の妄想なんですけど、ファンルンは運命を変えることができないこの世界そのものを憎んでいたのではないかなと。恐ろしく残酷な欲求も、どうしてそうなったのかと元を辿れば、たぶん破滅的な願望がいつも彼の中にあるから。滅びの剣の力を見て、世界を破滅に導けると思ったのでしょう。こんな世界、いっそ壊してめちゃくちゃにしてしまえ、と。愛情を知らぬまま、逃れようのない運命を受け入れて生きてきたのだと思います。そうさせた世の中を丸ごと憎み、無意識的に"人を殺める"行為が快感に繋がっていったのかもしれません。(もちろんネジはずれてますし既に結構クレイジーなので、あくまで「無意識」の話。)

だからこそ、ダイを救うため、運命に抗って真っ直ぐに前へもがき進むフローのことは、目障りだったのかもしれません。「君のためには歌わない」と頑なに信念を貫くフローに散々な仕打ちをしてやったのも、そんな私情がありそう。余計に腹立たしかったのかもしれないです。

たたらの島を出るとき、ファンルンは「運命なんてそう簡単には変えられない」と吐き捨てます。しかしその頃、たたらの島では600年降り続いた雨が止み、運命が変わり始める兆しが示されていた。その分、強がりのように聞こえました。自分に言い聞かせていたのかもしれません。

 

フローとダイがついに対峙する中、ダナトリアに刺されてファンルンは最期を迎えます。しぶとく救いを求めますが、何度か切りつけられてあっけなく死んでしまう。ここでもやはり、ファンルンの生い立ちを踏まえると切なくなります。誰からの愛を受けることもなく、人間らしく生きられないまま終わりを迎えてしまった。一体どんな愛なら彼を救えただろうか。どうすれば彼は運命を変えられただろうか。フローとダイのように、暗い過去に負けず前を向き続ける強さがあれば、こんな運命を辿らなかったのだろうか。そんなことばかり考えてしまいます。

結局のところ、たかとくんがブログで書いていた内容から少し拡大解釈しましたというだけのお話になってしまったような気もしますが、とりあえず今はこんな感じでファンルン様に対する愛おしさと切なさの気持ちで心臓破裂しそうです…。

リューンという作品、溝口くんがインタビューでお話されていたとおり「愛」の物語であると同時に、「運命」の物語でもあるなと思います。悲しい運命に飲まれても、前を向いて進む勇気を与えてくれる作品でした。


今回ジャニーズJr.の2人が主演+大好評の初演を経ての再演+再演からの新キャスト ということで、アウェイ中のアウェイでの参加だったと思います。ご本人の緊張を思い、なぜかこちらも緊張するという謎事象すら起こしておりましたが、当の溝口くんは「初演の面白さを最低ラインとして超えなければならない気持ちはありますが、あまり重圧は感じていない」*4「初演をご存知の方は「お前はどんなファンルンを演じる気だ」と思っていただきたい。」*5などと各種媒体でお話されていました。頼もしいことこの上ない!!!!!あれこれ考えるよりも、どうすればいいお芝居が出来るかを考えるのが先決というわけです。やるべきことをきちんと理解して淡々と進めていらっしゃる、そんな職人肌の推しが大好きです。こうやって彼のお芝居への誠実な向き合い方に毎度新鮮に驚いてしまうんですよね…。そして他出演者のファンの方や、共演者の方が褒めてくださっているのを見かけると、なぜか私がバンザイしたくなるほど嬉しいです。誇らしいったらない。こんな素敵な人を応援できて幸せだな…と思うことも509回目位ですかね(?)溝口くんなりに考えて考えて、たくさん掘り下げてつくりあげられたであろうファンルン様、たしかに「可愛らしくも切ない」キャラクターであり、複雑な人物でしたが本当に素晴らしかったです。残り公演も楽しみにしております。

あれっ気づいたらファンレターみたいになってしまいました…。無意味に長くなってしまいましたが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました!せーの!リューン\カンパニ〜〜〜〜!/

 

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*1:2019年4月上演ミュージカル「花園」で溝口くんが演じた役です。

*2:リューンありがとう。 : 永田崇人 https://lineblog.me/nagatatakato/archives/1013030.html

*3:溝口琢矢が新たなピースとなって旅に出る──ミュージカル『リューン~風の魔法と滅びの剣~』 | 【es】エンタメステーション https://entertainmentstation.jp/447788

*4:脚注*3に同じ

*5:溝口琢矢『リューン』再演に初登場! 「ファンルンとして作品の中に溶け込みたい」 | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス https://spice.eplus.jp/articles/238397